2019年2月16日
杉の老木と語り合うように・・
昨年の夏に、ある男性がひと固まりの杉の老木を持ち込まれました。
この方は、3年ほど前にも同じように杉の木を大切に抱えて来られた方でした。
幼い頃から心のよりどころとなっている神社の御神木で、
樹齢1000年を超える杉の大木があるのだそうです。
台風が過ぎたあと、その御神木から剥がれ落ちたのが
今回お持ちくださった材でした。
以前もこの杉の老木から落ちてきた枝で、腕輪をお作りさせて頂きました。
3年間大切に身に着けてくださっていたので、
挽きっぱなしの木珠でお作りした腕輪は、見事に艶が出ており、
見せて頂いた私達もビックリしました。
この方は、他にも極上の沈香のブレスレットもご愛用されています。
こちらも長年大切にお使いになっており、素晴らしい艶になっていました。
涼やかな良い香がフワッと漂って、
何年もお使いになっているものとはとても思えないほどでした。
では、今回のご依頼をお聞きします。
今回はこの杉の材で、真言の立派な大きなお数珠を作ってほしいとのことでした。
しかし材はこの大きさでこの厚み・・。
出来る限り立派で大きなお数珠が作れるよう、入念に材料を確認しました。
あらためてじっくりと材を拝見させて頂くと、
老木とはいえ、杉らしい美しい木目が見られます。
木目が美しく見えるように、そして出来るだけ大きな玉が挽けるように、
じっくりと考えてから刃物を入れます。
この工程が一番神経を使うところです。
そして、ひとつひとつ丁寧に玉に挽いていきます。
限られた材なので、無駄のないように慎重に慎重に・・
全ての玉を挽き終えてホッとひといき。
でも、まだまだ作業は続きます。
今度は、ひとつひとつ丁寧にバフ仕上げで磨き上げていきます。
磨きを繰り返し、最後はやわらかな布を使って木本来の樹脂分で艶を出します。
こちらの杉はかなりの老木ですが、しっとりとした美しい艶が出ました。
念珠に仕立てていきます。
房も何度もご相談させて頂き、この落ち着いた茶の小田巻梵天に決まりました。
完成した尺7寸丈の真言宗の念珠です。
大変貴重な御神木の杉の老木と語り合うようにしてお作りさせて頂きました。
「何年か使い込んだらまたお見せします」とおっしゃって工房を後にされました。
数年後にどのような念珠になっているのか、
今から見せて頂く日が楽しみでなりません。